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 CAPかながわ 10周年記念講演会報告




1.「子育てハッピーアドバイス」
             豊かな思春期を迎えるために今できること
                      ・・・明橋大二氏 講演会

プロフィール:真生会富山病院心療内科部長、専門は精神病理学、児童思春期精神医療、小学校スクールカウンセラー ・ 児童相談所嘱託医NPO法人 子どもの権利支援センターぱれっと 理事長H18年10〜11月 フジTV「笑っていいとも!」火曜日の子育てコーナーの準レギュラーとして出演著書 『子育てハッピーアドバイス』シリーズ、『輝ける子』シリーズなど多数。
明橋大二先生の公式HP:http://www.akehashi.com/

     








〜講演会概要〜
 今の子どもたちは、自己評価が低くなっていると言われています。自己評価というのは、自己肯定感・自尊感情ともいえ『自分は生きている価値がある』『大切な存在』『生きていていいんだ』という感覚です。
  平成14年に文部科学省が『中学生の生活と意識に関する調査』をしました。これは、日本の中学生の自己評価をアメリカ・中国の子どもと比較した調査です。
質問1 「時々自分が役に立たない人間だと思う」 
    アメリカ32%   中国25.4%   日本56.4%
質問2 「自分は他者に劣らず、評価のある人間である」
    アメリカ81.5% 中国86.6%   日本31.5%
 日本のおとな社会のまなざしが、子どもたちに対する否定的な見方が多く、そのような否定的な言葉がけをを繰り返ししてきた結果ではないかと思っています。
 自己評価の低さが子どもたちのいろいろな症状や行動の根っこにあります。
 心の成長の一番土台になるのが、『自己評価・自己肯定感』.です。これをしっかり育んでいくことが大切です。
      
 子どもから 「どうせ・・」という言葉が出てきたら、自己評価が低くなってきている心のSOSのサインです。そんなときには、『あなたは大切な存在なんだよ』『生まれてきて良かったんだよ』という気持ちをしっかり伝えることで、土台をから育て直すことができます。土台を立て直すのに、遅すぎるということはなく、気がついたときからやり直すことができます。
 また、子どもの心の成長は、依存と自立、甘えと反抗を行ったり来たりしながら大きくなっていきます。依存して甘えて安心感をもらった子どもは、いろいろ縛られていて不自由だなと感じます。安心だけど不自由な世界。すると、自由になりたいという気持ちが出てきます。それが、「意欲」です。そして、自立した自由の世界に向かいます。しばらく自由を満喫すると不安になってきて、また甘えて安心感をもらう。行ったり来たりしながら大きくなるのが子どもの心です。
 それを子どものペースで見守っていくことが大切です。
例えて言うなら「手のひらの中の卵みたいなもの」子どもの心を締め付け過ぎもせず、あんまり離し過ぎもせずに、ほど良い力で支え続けていくことです。
 そして、自己評価を育てるには、スキンシップをすること。子どもの話をしっかり
聴くこと。そして、頑張りを認めることです。
 一番簡単で、有効なことは「ありがとう」という言葉をかけていくことです。「ありがとう」という言葉はお礼の言葉と同時に、存在価値を高める言葉です。「自分がやったことが人の役に立てた」と感じられる言葉だからです。
「頑張れ!」より「頑張っているね」と認めていくことも大切です。
 昔は昔で子育ては大変でした。今の子育ては、昔にはなかった別の困難や辛さがあります。その中で、一生懸命子育てをしているお父さん・お母さんの子育てを労らいましょう。辛さを理解し、支えていくことです。子どもは地域の宝。国の宝。それを育てている親もまた宝なのです。

           2008年12月1日発行「 CAPかながわつうしん VOL.7」に掲載

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 共同募金会助成金事業 講演会報告



2.「いのち」の大切さが分かる子に
  〜子どもたちの自尊感情を育てるために〜
    ・・・東海大学文学部心理・社会学科教授 近藤 卓氏

プロフィール:東京大学大学院教育学研究科博士課程単位修得満期退学。スクールカウンセラー、大学講師の後、ロンドン大学客員研究員を経て、東海大学文学部心理・社会学科 教授。日本学校メンタルヘルス学会 理事長、子どもといのちの教育研究会 会長。
著書に『死んだ金魚をトイレに流すなーいのちの体験の共有』(集英社新書)や『自尊感情と共有体験の心理学』(金子書房)『いのちの教育の理論と実践』(金子書房)『いのちを学ぶ・いのちを教える』(大修館書店)など多数。














〜講演会概要〜
 カウンセリングに訪れる子どもは失恋、親とのトラブル、進学など入り口はさまざまだが、問題の核心は「生まれてきてよかったのだろうか」「生きている意味があるのだろうか」というような自分のいのちの大切さに自信が持てないという事を訴えてきている。
 おとな、教師や心理学者によれば、国際的に見ても日本の子どもたちの自尊感情が低い、また年齢を重ねるごとに低くなる傾向があると言われ、自尊感情の低さに危機感を感じている。そして、子どもたちの「自尊感情を育てよう」と誉める、評価する、声をかける、役割を与えるなどしてきた。
 アメリカでは、1980年代、国費を投じて誉める、評価する、声をかける取り組みをしたが、その結果わがままで自己中心的な子どもが育ち、生きる力は育たなかった。
 今から120年前の1890年代に、アメリカの哲学者・心理学者ウィリアム・ジェ−ムズが自尊感情を以下の数式で表した。
       
 ここで表された自尊感情は、社会的自尊感情(Social Self Esteem)で、認められ、見つめられることによって高まるような、他者との比較による相対的な優劣による感情である。しかし、自尊感情には、もう一つの部分、基本的自尊感情(Basic Self Esteem)があり、それは、体験と感情を共有することを繰り返し、和紙を重ねていくように形成される。相対的ではなく絶対的な無条件の感情である。

1890年代は体験と感情の共有は当たり前のことであったため、前出の式が成り立っていたのであろう。
下図は、自尊感情の四つの分類である。


 外から見れば、図のSbとSBは見分けがつかないが、Sbタイプは基本的自尊感情が育っておらず、社会的自尊感情の部分が成功したときは、その部分が熱気球のように膨らんでいるが、失敗したらへこんでしまう。状態、状況に依存しているため、「つぶれてしまうとつらい」「自信がない」「生きる自信がない」となってしまう。また、「つぶれるのは懲り懲りだ」「常に膨らませておこう」と、決して失敗しないためにあらゆる場面で頑張り続けることになってしまう。危うい橋を渡っているような感じの毎日になる。Sbの子どもは、かなりの数いるように思われる。

SBタイプは、基本的自尊感情、心のベースがしっかり支えられる。だから失敗をしても「まあ、いいじゃん。」と思うことができ、失敗を恐れたり、「生きる自信がない」となったりはしない。このような子どもを育んでいく。

心のベースである基本的自尊感情を育くんでいくには、「共有体験」と「感情の共有」を積み重ねていくことである。
 まず、相手と向き合い関係を作る。次に「並ぶ関係」で、相手との関係を深めていく。例えば、並んで一緒に食事をしたり、一緒にテレビを見つつ、一緒に泣いたり、笑ったり、ドキドキしたりするような体験を積み重ねる。
 基本的自尊感情は、和紙に糊をつけて積み重ねせていくような感じで、一枚一枚は気がつかないくらいの薄さのものだが、糊が乾けばしっかり固まり揺らがないものである。 

 「愛」と「禁止」のバランスも大切である。「愛」だけでは愛は伝わらない。無条件の愛を伝えるためには無条件の禁止「人を傷つけてはいけない」「人のものを取ってはいけない」など条件付きではなく「ダメなものはダメ」と養育者・親が伝えていくことが大切である。

 10〜12歳ごろに「いのちって何だろう」「自分が死んだらどうなるんだろう」「どうして生まれてきたんだろ」という答えが見つからない問題にぶつかる事が多い。生まれて初めて出会ういのちと向き合う体験は、誰かと「共有」することで、いのちを肯定的に捉えられ基本的な自尊感情が育まれる。そして、「共有」した事で答えに到達しないまま問題を「棚上げ」できる。「棚上げ」ができた子どもは、人生という名の列車で旅を続けるのに、「いのちへの問い」という重い荷物は網棚に上げてあるので安心して旅を続けることができる。棚上げした荷物は、人生の岐路で落ちてくることもあるが、誰かと「共有」し「棚上げ」できているので、落ちてきても次からはひとりでも「棚上げ」することができるので安心して旅を続けることができる。

 〜質疑応答から〜

Q:子育てが思い通りにいかないと悩んでいる人もSbタイプが多いように感じる。
A:保護者、養育者は、子どもと共有体験を積むことで、おとなも基本的自尊 
 感情の層が厚くなる。子どもを育んでいるだけではなく、自分自身も育まれ
 ている。SbタイプからSBにタイプに育っていくチャンスである。

         2010年4月20日発行「 CAPかながわつうしん VOL.10」に掲載

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 共同募金会助成金事業 講演会報告




3.「ドキュメント 高校中退〜いま、
                         貧困が生まれる場所」
  子どもの貧困の実態と教育の課題
           ・・・明治大学・埼玉大学講師 青砥 恭氏

プロフィール:NPO法人さいたまユースサポートネット代表理事、1948年島根県松江市生まれ。元埼玉県立高校教諭、現在、埼玉大学、明治大学で講師。教育法、教育社会学、教育方法に関する論文多数。 「子ども・若者と貧困」を独自の視点で研究している。 2000年以降、地域で若者支援活動ののち、2011年、NPO法人さいたまユースサポートネットを設立し、 居場所のない若者の支援活動を行っている。 
著書に『日の丸・君が代と子どもたち』(岩波書店)、『ドキュメント高校中退』(筑摩書房)など。










〜講演会概要〜

 2006年の調査によると、全国で高校入学者1,157,291人のうち、93,710人が高校を中退している。その多くは、いわゆる底辺校と言われる高校の子どもたちである。家庭で虐待、ネグレクトを経験した子ども、小学校から勉強についていけなかったという子どもやいじめ・不登校を経験した子どもも少なくない。また、生活保護家庭の子どもも多い。

 中退するのは、「個人の問題」「全部自分の責任だ」としてしまうと、人として壊れてしまう。2008年の土浦、秋葉原、八王子で起きた派遣の若者たちの犯罪は、社会から「無視され続けている」若者たちが起こしている。
 派遣労働→派遣切り→住居喪失→退職金・失業保険なし→生活保護といった流れの中で、「私は今の職場にはいらない」「自分がだめなのは自分のせい」、自分に向けられた攻撃感情が、自死願望となり、たまたま周りにいた人たちを「誰でもよかった」と巻き込んでしまった犯罪といえる。なぜ、若者たちが「個人責任論」に執着するのか、この社会の在り方を考える必要がある。

 現代的な貧困の現れ方は、単なる低所得ではなく、長期の失業、低学力・低技能、疾病、家庭崩壊、社会的保障の権利の喪失、貧しい住居事情、犯罪、社会的孤立などの諸問題の結合によって、社会的に排除を受けた過去の積み重ねである。
 積み重ねによる貧困の連鎖について、釧路市の例をあげると、生活保護世帯の母の3人に1人は中卒・高校中退(その父親の42.3%、母親の51.9%が中卒・中退)であることからもわかる。
 社会的な排除は、経済的な貧しさプラスつながり(関係)の貧しさから、社会の隅っこに追いやられていくことである。

貧困は、個人だけで解決していける問題ではない。

 親から子どもへの貧困の連鎖を断つには、
@貧困世帯(一人親世帯)の子育て支援 
A貧困世帯(一人親世帯)の子どもの学力を育て高校進学を支援する 
B高校卒業を支援する(中退を防ぐ) 
C就業(社会的自立)までの支援(職業訓練) 
D地域「子育て相談施設」(地域のソーシャルワーク) 
E「福祉行政」と「学校・教育」と「地域社会」をつなぐネットワークの構築が急務であり、貧困層を孤立させず、社会に包摂することは地域づくりにとっても重要な課題になっている。

 日本の現状は、“待ったなしの”状況になっている。

 彼らの多くは、生まれてから社会や家族の温かさを感じた事がない子どもたちである。
 様々な支援とともに、一緒に考えたり、悩んだり、長いスパンで頼れるおとながいること、彼らが社会とのつながりをもう一度再建していく居場所・場作りが大切である。
                                              (SC)

         2011年5月15日発行「 CAPかながわつうしん VOL12」に掲載

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